信用取引(Margin trading)とは
ざっくり概要
信用取引とは、自分が持っている現金や株式を担保(委託保証金)として証券会社に預けることで、預けた保証金の約3倍の取引ができる制度のこと。
現物取引とは違い「株を借りて、先に売ってから買い戻す(空売りする)」事もできるので、株価の下落局面でも利益を出すことができるが、様々なリスクがあり「空売り」の場合は「理論上、発生しうる損失が無限大」になることがある。
ハイリスク・ハイリターンな取引なので、メリットだけでなくデメリットの部分もしっかり仕組みを知っておかないと、とんでもないことになるので要注意!!
より詳しく
信用取引は、自分が持っている資金以上の取引が出来たり、株を売ることから始められたりなど、便利でハイリターンなメリットがあるものの、しっかりと仕組み(ルール)をわかっていないとハイリスクなので、ちゃんと理解しておきましょう!
信用取引がある理由
信用取引がある理由は、市場参加者(買ったり売ったりする人)を増やして、株価の公正・適正な価格を決めるために必要だから生まれた仕組みのようです。
JPX(日本取引所グループ)のサイトには「信用取引の目的」として以下のように記載されていて、
信用取引の目的
信用取引制度の目的は、投資者の便宜を図るとともに、仮需給の導入(手元に株がない人や買付資金がない人に株・資金を貸し付け、市場参加に結び付けること)によって流動性を高め、株価が高すぎる時や安すぎる時に、さらなる供給や需要が市場に入ることによって適正な価格形成を確保することにあります。引用元:信用取引の目的 |JPX(日本取引所グループ)
「信用取引」のメリットでもあるのですが、手元に十分な資金がなくても株式を購入できたり、株を持っていなくても売ることが出来たりします。
こうすることで「現物取引」する人(資金や株を持っている人)だけではなく、資金や株を持っていない人も同じ市場に参加できるようになって、株式取引を行う全体の人数が増えて、株価が適正な価格になるというのが理由のようです。
株式市場は、少ない人数の考えで価格が決まるよりも、多くの人が参加してそれぞれの価値観が反映される方が適正になるということですね。
同じ銘柄を見た場合でも、その人によって今の株価が高いのか安いのかはぜんぜん違うから、確かに参加者が多いほうがいいんでしょうね。アダム・スミスの「神の見えざる手」ってやつですかね。
ちなみに、金融の信用取引はGHQがきっかけで、1951年(昭和26年)にスタートして、2013年から「同一資金を使って同じ日に何度でも回転売買ができるようになった」ことで、投資資金の拘束がなくなりデイトレードや短期売買がしやすくなったそうです。
現物取引と信用取引の違い
大きな違いは、資金をどうするか?になります。
自己資金のみで行う取引が現物取引で、自己資金を証券会社に預けて証券会社から金銭もしくは株(有価証券)を借りて行う取引が信用取引です。
また取引方法も違い、現物取引は「買い」で始まって「売り」で終わります。
一方信用取引は、「新規建て」で始まって「返済」で終わります。
「新規建て」には、「買い建て(買建:かいたて)」と「売り建て(売建:うりたて)」があり、「返済」にはそれぞれ「返済売り」と「返済買い」になります。
信用取引は、証券会社に金銭や株(有価証券)を「借りて」行う取引なので、終わるときは「返済」になるんですね。
したがって信用取引は「借りて」いる期間や取引には、現物取引とは違う費用(諸経費)が必要になります。
SMBC日興証券の表が見やすかったので引用しておきます。
色々わからないところがあるのですが、以下で説明していきます。
信用取引の売買の仕組み
まずは信用取引の売買の仕組みです。
現物取引のように買ったり売ったりするのですが、証券会社に金銭や株(有価証券)を「借りて」から行う取引になるので呼び方やルール・コストも変わります。
担保と委託保証金
信用取引で売買を始めるために、証券会社から金銭や株(有価証券)を借りるのにあたって、それに見合う担保※となる現金や株式を証券会社に預ける必要があります。担保は預けているので、自由に使うことはできなくなります。
担保を預けて、金銭や株(有価証券)を借りて信用取引を行いますが、信用取引で「買い建て」たり「売り建て」たりした際に、想定外の価格変動が起きた場合に証券会社に預けてある現金や株式だけでは担保が不足してしまう場合があります。
そのため、価格変動に伴う損失による担保価値の減少をカバーするため、委託保証金と呼ばれる一定の保証金を証券会社に預けることになります。委託保証金は、買付価格、売付価格の30%以上と定められており、現金のほか有価証券でも代用できます。
この委託保証金(自己資金30%以上:委託保証金率)を、別の表現で言い換えると「レバレッジ率」になるので、約3倍と表現されていることが多いようです。
自己資金が100万円だった場合、信用取引は最大で約333万3,333円(100万円÷30%)まで取引ができますが、割り切れない場合もあるので約3倍と表現されているそうです。
ちなみに最低委託保証金は、30万円の証券会社が多いようです。
建玉(たてぎょく)
信用取引は「新規建て」で始まるのですが、「新規建て」を行った信用取引の株券のことを「建玉(たてぎょく)」と呼び、「買建玉(かいたてぎょく)」と「売建玉(うりたてぎょく)」の2つがあります。また「建玉」のことを「ポジション」と呼ぶこともあります。
ちなみに現物取引で買った株式は「保有株式」と呼びます。
買建(かいたて)
証券会社から借りた金銭で株を買うことを「買建(かいたて)」といい、買建てた株券のことを「買建玉(かいたてぎょく)」といいます。
「買建(かいたて)」した場合には、株価が購入時より上がった場合に「返済売り」をおこなって決済することで、最初に借りた買付け代金と手数料、金利分、諸費用を差し引いた差額が、利益になります。
想定外に株価が購入時より下がった場合は、損失になります。
売建(うりたて)
証券会社から借りた株を売ることを「売建(うりたて)」といい、売建てた株券のことを「売建玉(うりたてぎょく)」といいます。
俗に言う「空売り(からうり)」っていうやつですね。
「売建(うりたて)」した場合には、株価が購入時より下がった場合に「返済買い」をおこなって決済することで、買い戻し分に使う代金や手数料、諸費用を差し引いた差額が、利益になります。
想定外に株価が購入時より上がった場合は、損失になります。
現引き(げんびき)・現渡し(げんわたし)
信用取引は「返済」する際に「返済売り」「返済買い」のように、現物取引と同じように建玉を反対売買で決済することも出来ますが、「現引き」と「現渡し」という別の方法もあります。
「現」とは現物株のことなので、現物株を引き取ったり、渡したりする方法です。
したがって「現引き」と「現渡し」は、現物取引では使えない方法です。
現引き
現引きは「新規買建」をした場合の決済で、買い付けた株式を売却せず、借りた資金を返済し、信用取引で買い付けた株式を受け取ります。
信用取引で「買建て」したのにも関わらず、わざわざ現物株化するメリットがあるのかなと思うのですが、以下のようなメリットがあります。
-
購入したかったときは資金が足りなかったので、信用取引で買っておいて資金ができたら現物株化。
- 短期で売却する予定だったけど、中長期で上がりそうだから(想定外の下落で長期間かかるかもしれないから)現物株化して金利などのコストを抑える。
- 金利や逆日歩を止めたり、手数料を節約できる。
現渡し
現渡しは「新規売建」をした場合の決済で、借りた株式を証券会社へ返済することで、売付代金を受け取ります。
現渡しも現引きと同じように、わざわざ現物株を使って返済するメリットがあるのかなと思うのですが、以下のようなメリットがあります。
- 長期保有したい現物株式の値下がりリスクを回避できる
- 「つなぎ売り」が使える
- 「優待クロス」が使える(でも「逆日歩」に要注意)
「つなぎ売り」と「優待クロス」
つなぎ売り
つなぎ(売り)とは、すでに現物株式で持っている銘柄の株価下落が予想される時に、現物株式を売らずに、信用取引で空売りをすることによって値下がりのリスクを回避しようとする手法のことです。
予想通りに株価が下落した場合には、空売りした「売建玉(うりたてぎょく)」を返済買いして得た差額分の利益で、現物の値下がりによる評価損をカバーできるという方法です。
逆に予想に反して株価が上昇した場合には、保有している現物株を「現渡し」することによって空売りした損失の発生を防ぐことができます。
優待クロス
「優待クロス」は、「優待クロス取引」「優待クロス注文」と言ったりします。
手法は先程の「つなぎ売り」と一緒ですが、株主優待の取得が目的になるので取得したい株主優待の銘柄を、「現物株式の買い」と「信用取引の売建」を同時に行う方法になります。
同じ銘柄の「現物株式の買い」と「信用取引の売建」を同時に行っているので、株価が上がっても下がっても、株価変動による損益は差し引き0になります。
ただし、株価とは別に各種手数料がかかるため「優待クロス」を行ったからといっても、タダで株主優待をもらえるわけではないので注意が必要です。
制度信用取引と一般信用取引
信用取引には「制度信用取引」と「一般信用取引」があり、それぞれ特徴があります。
主な違いは取引できる銘柄の違いです。
またその違いによって金利・貸株料・逆日歩(ぎゃくひぶ)・取扱銘柄・期間の5点に違いが出てきます。
日本取引所グループのサイトに、ざっくり全体像がわかる図があります。
この図だけだとちょっとわかりにくかったので、それぞれ確認してみます。
制度信用取引
制度信用取引では、利用している「証券会社」の先に「証券金融会社」が存在していて、「証券会社」の資金や株式が不足した時にも「証券金融会社」から資金や株式を借りることができます。
- 取扱銘柄:上場銘柄のうち一定の基準を満たし、取引所が選定した銘柄のみ。(買いのみができる銘柄を融資銘柄、売りもできる銘柄を貸借銘柄という)
- 期間:原則最長6か月(期日を延ばすことはできないので、返済期日までに反対売買か品受、品渡が必要)。
- 金利、貸株料:一般的に一般信用取引の金利より低くなる。
- 逆日歩:発生の可能性あり。
ただ、「証券金融会社」が株式が不足になった場合には、「逆日歩」という追加のレンタル料のような費用が発生する可能性があり、事前に想定できないため想定外の高額になる場合があるので注意が必要です。
一般信用取引
一般信用取引では、利用している「証券会社」の資金や株式を借りることで行う取引。
そのため制度信用取引では、取引できない(取り扱っていない)銘柄の信用取引ができて、逆日歩が発生しないメリットがあるものの、新規売り(空売り)する時に証券会社の在庫がない場合は、新規売り(空売り)ができないデメリットがある。
- 取扱銘柄:証券会社による(原則全上場銘柄)
- 期間:当日〜無期限など、利用する証券会社によって違う。
- 金利、貸株料:証券会社によるが、一般的に制度信用取引の金利より高くなる。
- 逆日歩:発生の可能性なし(ただし証券会社の在庫が無くなれば新規売り(空売り)ができない)
「金利」や「貸株料」「品貸料」などの手数料
「制度信用取引」や「一般信用取引」を利用する場合には、利用する証券会社によって諸々の手数料がかかってきます。
SBI証券と楽天証券を利用しているので、信用取引を行った時に関わる手数料の項目だけ並べました。金額や%は、利用する証券会社やプランによって違うためざっくりな目安です。
- 取引手数料:1約定代金によって / 100円〜
- 金利(買方金利):3%前後
- 貸株料(売方金利):0〜4%
- 品貸料(逆日歩):想定できない
- 管理費(事務管理費):1株あたり11銭〜
- 名義書換料(権利処理手数料):売買単位あたり55円〜
建玉(買いか売りか)によって違いがあるので、全てが必要なわけではありませんが、現物取引と違っていろいろな項目があるため、事前にしっかり知っておいたほうが無駄な費用を使わなくて済む場合もありそうです。
また取引スタイル(超短期か長期でやるかなど)によって、証券会社独特のお得な「コース」や「メニュー」があるので、調べてみたほうが良いです。
信用取引のメリット
信用取引は、現物取引とは違うメリットもありますが、ハイリスク・ハイリターンはデメリットにもなるので注意が必要です。
約3倍の取引ができる
「担保と委託保証金」の部分で説明したとおり、委託保証金(自己資金30%以上:委託保証金率)となるので、自己資金が100万円だった場合、信用取引は最大で約330万円まで取引ができるので、より大きな取引をすることができます。
また、ずっと保有しておきたいと考えて持っている株式や、株価が下がって塩漬けになっている株式なども担保として利用できるので、限りある資金だったとしても有効活用することができます。
同じ保証金で、何度でも取引できる
以前は違ったのですが、2013年から「同一資金を使って同じ日に何度でも回転売買ができるようになった」ことで、投資資金の拘束がなくなりデイトレードや短期売買がしやすくなったそうです。
それまでは、売買の際に資金が拘束されていたので(要確認)同じ日に何度も買ったり売ったりすることは出来ませんでした。
塩漬けになっている保有株式を有効活用できる
委託保証金として、ずっと保有しておきたいと考えて持っている株式や、塩漬けになっている保有株式を担保にすることが出来ます。
この場合「代用有価証券」の換算率は通常80%以下と定められているので、日々変動する株価によって担保評価に影響があるので注意が必要です。
もし必要な担保額を下回った場合には、委託保証金を追加する必要があります。この追加する委託保証金を「追加保証金または、追証(おいしょう)」と呼びます。
売りからでも取引ができる
現物取引では、自己資金を元にして株式を「買う」ところからスタートするしかありませんが、信用取引では最初に株式を借りることで「売る」ところからスタートすることができるようになります。
現物取引で「安く買って高く売る」形の値上がり益だけでなく、信用取引では「高く売って安く買い戻す」ことで生まれる差額からも利益を上げることができるようになります。
信用取引のデメリット(リスク)
現物取引と違い、信用取引では投資金が0になるだけではなく大きくマイナスになる(借金になる)リスクがあるので、事前にリスクを知っておく必要があります。
追加保証金・追加証拠金(追証:おいしょう)
現在持っている建玉が想定と反対の動きをした場合、含み損が発生して委託保証金が一定水準以下になってしまう場合があります。
委託保証金が不足した時に建玉のポジションを維持するためには、不足分の保証金(追証)が追加で必要になります。
証券会社から指定された日時まで不足分を解消できれば問題ないのですが、もし何もできなかった場合は証券会社のルールに従い、強制的に反対売買をして返済されることがあります。この場合、追加の手数料がかかる事が多いようです。
また「空売り(売建)」している場合は、株価が上昇すると損失になるのですが、理論上株価上昇には上限がないため、「空売り(売建)」の損失が「青天井」になるため気をつけないといけません。
高額な逆日歩発生
制度信用取引の場合、信用売りをしている銘柄が株不足になると、追加のレンタル料が発生することがあります。このレンタル料が逆日歩です。「品貸料(しながしりょう)」ともいいます。
逆日歩が発生した場合、信用売りをしている人は逆日歩を支払うこととなります。
※銘柄によっては多額の逆日歩が発生することがありますので、十分に注意が必要です。
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